柿渋研究家 今井敬潤
1.柿渋とは
柿渋は渋ガキの未熟の青い果実を潰し、圧搾して得た液を発酵させてつくられた褐色の液体です。タンニンを多量に含み、発酵の過程で、酢酸や酪酸などの揮発性の有機酸が生成され、特有のカキ渋臭があります。
2.カキ渋の利用の歴史
カキ渋は用意に不溶性の強靭な皮膜を作り、防水・防腐効果を持つため、古くから、木製品・和紙への塗布や麻・木綿などの染色に利用されてきました。特に、農村漁村の生活においては生活必需品として日常的に用いられ、また、漁網、酒袋を始めとする醸造用搾袋、養蚕用具・染色用型紙などの生産用具や、渋紙、紙衣、和傘、渋団扇、漆器(渋下地漆器)などを製造する上でも重要な役割を果たしてきました。ほかに、板塀や柱などの建築物の塗料としても用いられ、木製品への利用も合わせ考えると、漆に匹敵する重要な塗料であったといってもよいでしょう。なお、江戸時代に書かれた『農業全書』を始めとする農書などから、カキ渋の利用と生産が盛んに行われ、カキが食用とともにカキ渋採取用としても栽培されていたことがわかります。しかし、戦後、化学繊維や科学塗料が普及することにより、カキ渋の利用は激減し、その後、清酒製造における除蛋白を目的とした清澄剤としての利用がその用途の大半を占め、現在に至っています。
3.現在のカキ渋の利用
清澄剤のほかのカキ渋の新たな有効利用の研究が多方面でなされて来ています。その利用量は多くはないのですが、化粧品素材、重金属の吸着剤、健康食品のポリフェノール素材などとして実用化されているものがあります。化粧品素材は、カキ渋中のタンニンが持つ皮膚細胞に吸着して皮膚を保護する性質や、肌を引き締める収瞼効果を利用したもので、カキ渋が火傷やしもやけの民間薬として利用されてきたことにヒントを得て開発されたものです。なお、カキ渋は高血圧の民間薬としてもよく知られ、臨床試験においてその効果が確認されています。
また、工芸分野では、草木染めブーム、その後の藍染めに続き、近年、カキ渋染めがクローズアップされ、静かではありますが一つのブームとなっています。
( 1)伝統的建築塗料として利用の見直しの機運
近年、科学物質による環境汚染の問題化に伴う天然物質利用志向の中で、カキ渋の塗料としての伝統的利用法が見直されつつあります。最近の住宅・建築関連の雑誌では、「柿渋 自然塗料ならではの色あい」、「柿渋の復権 特集:自然・素材・住宅を考える」、「頑丈なフレームを柿渋が育む、現代の民家 特集:日本の素材 柿渋・漆・紙」などと住宅における塗料としての利用の試みが取り上げられ、注目を集めています。
たとえば、大工と庭師養成の専門学校で、伝統工法を教えている富山国際職藝学院における試みなどは注目に値します。ここで実施されている環境に負荷をかけない「二十一世紀に向けた住宅」を模索した日本学術振興会の未来開拓学術研究推進事業の
WPRH( Wood Perfect Recycle House )実験住宅において、カキ渋が建築塗料として用いられており、今後の利用の可能性を大きく示唆しています。
( 2)渋紙のホルムアルデヒド吸着資材としての利用の試み
大阪府立大学農学部で実施された研究で、現在、室内環境汚染物質の代表として注目されているホルムアルデヒドを吸着・除去するために、ホルムアルデヒドを科学吸着するタンニンを多く含んでいるカキ渋を利用したものです。カキ渋を塗った濾(ろ)紙を室内に設置する事により、ホルムアルデヒドの室内濃度の減少効果を調べました。この結果、カキ渋を塗った濾紙は、室内のホルムアルデヒド濃度を低下させる吸着材として効果のあることがわかったとしています。この研究はカキ渋の天然塗料としての利用にとどまらず、室内環境汚染物質の除去という点からも注目されるものです。
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